Newボイス朝日  連載記事 2007年 11月から 2008年 12月まで連載いたしました。


最終回 12回目 2008年 10月 10日

バラを召しませ!!                          にこにこバラ園 園主 伊丹雅昭

バラは「感動」です。

バラを作り始めてもうすぐ11年。バラに囲まれている生活が「ばら色の人生」なら良いのですが、毎日が失敗と反省の連続です。農薬が効かなくて急にダニが増え、多くの花を切り除かなければいけなくなったり、台風で屋根が破られたところに何日も雨が続き、病気を出して300坪分くらい一晩で葉が落ちてだめにしたり。肥料のメーカーを変えたら、急に葉っぱの色が変わりだして、大慌てで肥料を全部作り直したことも。冬、暴風でハウスの屋根を破られて、「バラを凍らせないように内側のカーテンだけでも」と真夜中に月明かりの中修理し続けたときは、風の音はすさまじいのに、お月様が泣きそうなほどきれいでした。そんなふうになって、もうだめかと思っても、気を取り直して手入れをしてやれば、バラはまた元気によみがえってくるのでした。生き物のたくましさを感じます。反対に、すごく調子よくきれいな花を咲かせてくれているとき、調子がよいからと、どんどん切っていると、急に花の大きさが小さくなったり、病気になったりします。原因はよくわかりません。多分、花も働かせすぎるとくたびれるのでしょう。そういう時は、少し休めてあげると回復してきます。バラでも何でも生き物が育ってゆく時は、主体はいつも成長してゆくもの自身で、育てる側は周りの環境に気を使いサポートしてあげれるだけです。11年育ててきても、これだけやっておけば大丈夫というような方法は見つけ出せず、毎日バラの顔を見て「どうだろうなー、どうしようかなー」と、悩み続けています。石油、資材、肥料の値上がりによる生産コストの上昇などでバラを作っている仲間がどんどん辞めて行きます。弊園は自分で販路を見つけて売るようになったので、まだ、かろうじて続けています。お客様と直接やり取りをするようになり、お叱りを受けることもありますが、誉めていただける時や、感謝されることも多く、それが、まだバラ屋で頑張れる原動力です。お客様の要望もあり、バラそのものだけでなく、バラに他の花や草を交えてラッピングで飾り付けをして花束として出すようになりました。かごのアレンジメントも、多く頼まれるようになりました。「わー」とか「きれいねー」とか言ってもらいたくて、バラをより美しく見せる腕も練っています。人が生きるのには食べ物だけでなく、感動が必要なのだと聞きました。バラは「感動」の小さな種になれると信じて。

連載を書き始めてから、あっという間の1年でした。12回にわたり、私のつたない文章にお付き合い頂きまして、誠にありがとうございました。

11回目 2008年 9月 12日

バラを召しませ!!                            にこにこバラ園 園主 伊丹雅昭

手がかかるのがバラのたしなみ

香水用バラとして有名なダマスク種のバラを、農業用ハウスの中に植えたところ、成長が速く一年間でハウスに人が入れないくらい繁茂してしまいました。枝を全部切って外に植え替えてやろうと思っています。そういえば、10年前にノイバラをハウスの中で育てた時も、急成長して歩くところがなくなり、あわてて抜いたことを思い出しました。野生種のバラの成長速度には驚きます。園芸種、特に切花用のバラは、四季咲き性とか、花の色や形、切り花での花持ちの良さ、香りなどを追及して品種改良されてきたので成長が遅く野性では生きてゆけない品種も多いと思います。人間が草や、病気や、害虫からバラを守って丁寧に育て上げるということを前提にしているのです。実際、外で育てているダマスク種の株はそんなに急成長はしないので、ハウスの中はバラにとってとても居心地がよいところなのだということが分かります。根も同じように環境に敏感で、切花用品種を土に植えた場合、自根ではなかなか成長しません。そこで、強い野生種や、その地域の在来種のバラに接木をして育てます。日本ではノイバラが良く使われます。根の部分だけ、野生のパワーを借りるのです。切花品種の土植用苗はほとんどが接木苗です。それだけ、成育環境を整えてやらなければいけないのがバラの切花用品種、まさに温室育ちの箱入り娘です。では切られた後はどうでしょう。切花の日持ちを考えて改良されてきていますので、(品種によってかなり違いがありますが)新鮮なバラでしたら特別何もしなくてもどんどん水を揚げて咲いてくれます。でも、そこはやっぱりバラの花。切られてからも花瓶の中で育ち続けていますので、手をかけてあげるほどに、より大きく綺麗に咲いてくれるようです。バラの好きな温度(人の過ごしやすい温度と同じ)の部屋に置いて、花瓶に切り花用の延命剤(細菌の増殖による導管の詰まりを防ぎ、花を咲かせるエネルギーを補います)を使ってください。そして、いつでもよく観てあげてください。水が揚がっていないなと思ったら、詰まった所を除くために、茎を数cm切り取って(切り上げと言います)深いバケツなどで花首まで水に浸けて、水圧で花首まで水を押し上げれば、復活することも多いです。どんどん切り上げて最後は花首だけ浮かべたりしても綺麗。手間をかけて作られたバラは、手間をかけて飾ってあげれば、いっそう綺麗に咲いてくれます。とにかく、バラの花は、手をかけてもらうのが好きなのですから。


10回目 2008年 8月 8日

バラを召しませ!!                          にこにこバラ園 園主 伊丹雅昭

バラが世界を飛び回る

残暑お見舞い申し上げます。今年は、本当に暑いですね。バラは気温(特に夜温)が高いと、花が咲き急いで大きく熟成する前に咲いてしまうので小ぶりになりがちです。そこで、夏はお休みにして、剪定に入るバラ農家も多く、冬場と同じように日本産のバラの花の流通は少なくなります。それを補うように入ってくるのが輸入物。バラは世界中から飛行機に乗ってやってきます。近くは韓国、中国、ベトナム、インド等。遠くは南米のエクアドルやコロンビア、アフリカのケニア、タンザニア、エチオピア、南アフリカ等等から入ってきます。輸入量は流通しているバラ切花の2割位。中でもインド産がいちばん多く、輸入バラの半分くらいを占めているそうです。インドやアフリカと言うと、そんな暑い所でと思われるかも知れませんが、バラを作っているところは高原地帯の冷涼地です。ケニヤの例で言うと、バラの生産施設の多くは標高2000m前後の所にあり、赤道直下で四季の温度差は余りなく最高気温の平均が24度、最低気温の平均が13度とバラ栽培には最適な気候なのです。バラ生産コストを比較すると、日本では、温室への初期投資、人件費、燃料代がその多くを占めるのですが、ケニアでは台風も雪もないので簡単な温室でよく、人件費は1か月分の賃金が1万円以下と言う話で、暖房費もいらないし、コストは極めて低く抑えられています。生産者の規模も大きく1社で弊園の千倍以上の広さの温室を持っている生産会社もあり、コスト面では全く競争になりません。バラの輸入には関税はかかりませんので、輸送費が関税代わりなのですが、この輸送費を安くするために、より日持ちする品種と輸送手段の研究をして、船便でも輸出できないかと画策していると言う話もあり、戦々恐々です。輸入用のバラは日持ちをするものが選ばれているので、どんどん咲いて咲ききるということが苦手なのも確かです。輸入バラに対抗するには、長距離輸送に向かないような花弁の柔らかいバラや、室温でどんどん咲いていくような動きのあるバラを作らなければいけないのかも知れません。バラは100%嗜好品。日本人が好きなバラを研究して、バラをもらったときに、どんな感じで喜んでもらえるのか、そこまで考えて、バラ作りをしなければいけない時代になってきたようです。

9回目 2008年 7月 11日

バラを召しませ!!                         にこにこバラ園 園主 伊丹雅昭

夏のバラ園

庭のバラの花が散り、毎日暑い日が続くようになっても、バラ園では1日も休まずバラの花が咲き続けています。夏、バラ園は大忙しの季節なのです。花屋さんで売っているバラのように、茎の先に1輪だけ花を咲かせようと思うと、一番上の花芽を残してその他の花芽(脇芽)を取らなければいけません。暑い季節は1週間くらい経つと沢山の新しい脇芽が出るので、毎週脇芽かきをしなければなりません。1万株以上植えてあるので、この仕事だけでも大変な量になります。水耕栽培でも雑草は生えてきます。バラの株と株の間の草を棘を気にしながら抜いてゆくのですが、バラ用の肥料で育つ草の成長は速く、取っても取っても直ぐに生えてきます。晴れると40度を越すハウスの中で、脇芽かきや草抜きをこつこつとやる仕事は結構きついです。3人のパートさんに午前中かかりきりで手伝ってもらっていますが、それでも、脇芽や草の伸びる速さに、なかなか追いつけません。この時期は、虫もつきやすく、病気にもなりやすいので、バラの健康管理も大切です。虫や病気が出たときは、農薬も撒かなければいけません。農薬も使いすぎると、農薬の効かない耐性の虫やカビが出現し、いざといったときに効きにくくなるので、虫や病気を出さない予防として日ごろの手入れも欠かせません。例えば、晴れて暑い日には水撒きをします。これはうどん粉病やハダニ(虫)の予防になります。風で運ばれるタイプのうどん粉病菌の胞子は洗い流されると他の葉っぱに飛んで行けませんし、ハダニも水でおぼれたり洗い流されたりします。木酢液や寒天液を撒く水に入れることもあります。木酢は葉っぱの表面を酸性にしたり、葉に活力を与えたりしてうどん粉病菌の力を少し抑えるそうです。寒天は乾くと薄い膜が虫の気門に張り付き、窒息させる助けになります。曇りや雨の時に水を撒くと、湿気を好む病気を助長したりするのでその辺の見極めが難しいところです。米ぬかを畝の間に撒くこともあります。米ぬかに付く菌(トリコデルマ菌や納豆菌等)が、バラの病原菌を食ってくれたり拮抗してくれたりするそうなので、病気予防のためです。ヨーグルトを食べて腸内を良い状態に保つのと似たような作用です。暑いと、バラの花もどんどん咲いてくるので、その処理にも追われ、気難しい花の女王の園は、優雅さとは正反対の慌しさの中で暮れてゆきます。

8回目 2008年 6月 13日

バラを召しませ!!                           にこにこバラ園 園主 伊丹雅昭

オリジナルのバラ

庭のバラが咲く頃になりますと、「バラの苗はありませんか。」とか「鉢物は買えますか。」と言う問い合わせが多くなります。申し訳ありませんが、幣園では切り花しか取り扱っておりません。バラの花は登録品種である場合が多く、契約無しでは勝手に栽培できません。弊園の交わしている契約は切花栽倍用なので苗販売や鉢物の販売は出来ないのです。いつかオリジナルの品種を作りたいという気持ちはありますが、新品種作りの道は険しくなかなか実現には至りません。新品種を作るには、まずどれとどれを掛け合わせるか悩むところから始まりますが、ABのバラを掛け合わせで新品種を作ろうと思うと、工程は次のようになります。Aのおしべを集めて花粉を採り、Bは開花前に花弁とおしべを取り去り、袋がけをして他の花の花粉が入らないようにしてめしべを成熟させます。Aの花粉を受粉させた後、また1週間ほど袋がけをして、その後普通に育てます。3ヶ月ほど経つとローズヒップが成熟しその中に種が出来るので、その種をまき、播種した鉢を一度冷蔵庫に入れて(冬を経験させる)2ヶ月ほどして発芽を始めたら、温室に戻して育て始めます。最初の花が咲くのが温室に戻して3ヵ月後位、気に入った品種を選び、何年間か育てながら、育ち方、花の形、色、葉、棘、耐病性などを見て、より良さそうなのを選んで行きます。大体、5万個の種を撒いて、物になるのは1〜2株あるかどうかで、交配させてから苗として売り物になるまで7年から10年くらいかかるそうです。(参考:切花栽培の新技術、バラ上巻 林勇編著)2004年に洋酒メーカーが、育種家の夢であった青色のバラを作り出すことに成功したことがニュースになりました。バラの花には存在しないと言われる青色の色素を作り出す酵素(細胞の中で働くたんぱく質で出来た機械のようなものだと思ってください)の遺伝子をパンジーから取り出してバラの遺伝子に組み込み、その色素(デルフィニジン)をバラの中で作り出すことによって青いバラの育種を可能にしました。来年にはその花が販売される予定と言うことですが、90年から始めたプロジェクトなので育種に19年(参考:サントリーのHP)。開発に何十億円もかかったなどという噂話を聞くと、これは例外中の例外かもしれませんが、バラの新品種作りには多大な時間と、手間と、お金がかかるようで、種苗法で登録品種として保護されるのももっともな話だと思いました。新品種を作ると、その品種に自分の好きな名前をつけることが出来ます。その名前だけはいくつか考えているのですが。

7回目 2008年 5月 16日

バラを召しませ!!                        にこにこバラ園 園主 伊丹雅昭

旅するバラ

五月、室温も高くなってきました。バラも日持ちが気になる季節になってきましたが、花屋さんで買うバラも日持ちするようになったとは思いませんか。弊園も市場出荷をしていますがここ数年で花の輸送方法が大きく変わりました。10年前バラ生産を始めた頃は、市場出荷する花はお昼に水からあげて箱詰めし、横に寝かせた状態でトラックで市場に運び、市場で一晩置かれた後に朝競り。競られた花は昼過ぎに花屋さんがお店に持って帰り、水揚げして復活。夕方頃からお店に並ぶという段取りでした。丸一日水に浸かっていない状態で、トラックも市場の倉庫もクーラーがなかったので、暑いときは花の水分が失われます。花屋さんで水揚げをすると再びシャキッとするのですが、一度箱の中で花首がくたくたになったものは、首が曲がりやすくなり、「バラの花は咲ききる前に、首が曲がってしまう。」と、よく言われました。今は違います。農場の冷蔵庫で充分に水を揚げたものを、バケツに入ったままの状態で、室温が5度の保冷車で運んでゆきます。大きな市場では、冷蔵保管庫があるところもあり、バケツごと保管されます。翌日、花屋さんに着くまで、水を一度も切らすことなく運ばれてゆくので、花から水が失われることも少なく、直ぐにでも使える状態でお店に入ります。バケツ輸送方式を取り入れていないところでも、箱に工夫したり、切り口にゼリー状のものや水を含んだキッチンペーパーのようなものを巻き、水を切らさないようにして運ぶ生産者が増えました。多くのバラが、このような湿式で運ばれるようになったので、首が曲がることも少なくなり、夏でも咲ききるバラの割合が高くなったのです。湿式で旅してきた活きのいいバラは水揚げもよいので、水を沢山吸い上げます。それが蒸散し湿気となり、バラが傷むのを速めることがありますので、湿度にも気を使ってあげてください。バラは人が好きな環境が好きなので、自分が気持ち良いなと思うような環境に一緒に置いてやってください。蒸し暑い日には人と同じく扇風機に当ててあげてもいいのです。花びらが少し傷んできたなと思ったら、その花びらだけ取り去ってやると、傷みが広がらずにより長く楽しんでいただけます。面倒かも知れませんが、花瓶の中のバラを、かまってあげてください。いつも見て、かまってあげるとバラも喜んで長持ちします。ほんとうですよ。

6回目 2008年 4月 11日

バラを召しませ!!                         にこにこバラ園 園主 伊丹雅昭

ばらはにほへと...

朝、陽が昇りバラの花が暖められて咲き出すとハウスの中にバラの香りが漂い始めます。畝ごとに違う種類を植えていますので、歩く所によって香りの種類も強さもまちまちです。その中にいるとなんとなく心休まる気がするのですが「バラの香り」ってなんなのでしょう。調べてみると、バラの香りは100年以上前から研究されていて、ゲラニオール、シトロネロール、フェニルエタノールなどの主成分に加えて600種類以上(文献によって違います)の微量成分が発見されているそうです。微量でも香りに大きく影響する成分もあり、それらが様々なバランスで影響し合い、あの複雑なバラの香りになっているようです。一方、嗅いだときの香りの感じ方からバラの香りを6種類、ダマスククラッシック(甘い香り)、ダマスクモダン(洗練された甘い香り)、ティー(紅茶のような香り)、フルーティー(果物のような香り)、ブルー(青系のバラに特有の香り)、スパイシー(クローブのような香り)に分けている文献や記事も多く見られました。ダマスク系のバラと言うのは、昔から香水になるバラとして知られていて、趣味で何株か育てていますが(一季咲きなのと棘がいっぱいなので切花用には向きません)、確かに甘い香りがします。紫色の“スターリン95”は特有のいい香りがしますし、“サフィーア”と言うバラはフルーツのような酸っぱい感じの香りがします。“アリファ”と言うバラは少しスパイシーかな、、、などという気もして、あてはめて行くと楽しそうだったのですが、言葉から香りを想像して分類するのは難しくてあまり進んでいません。同じバラでもつぼみの時と、花が咲ききったときでは香りが違うし、育つ季節や育て方によって香り方が大きく異なる気がします。花の大きさや色が季節や育て方で変わる様に、香りも育つ環境で変わるようです。オレンジ色の“パレオ90”と言うバラは時々とても香りが強くなり、お届けした人から「とてもよい香りで玄関を開けたらバラのにおいがして幸せだった。」と言われたりするのですが、咲いている時期(季節によるのか、肥料のバランスによるのか良く解らないのですが)によっては余り香らないときもあります。お花屋さんでよく見かける“ローテローゼ”という深紅のバラは、香りがないのでも有名なのですが、そのようなバラでも農場で咲ききった花からはなんとも甘い香りがします。大概のバラの花は、つぼみの時はスパイシィだったり、フルーティーだったりするのですが、開ききる頃には甘い香りになってくるような気がします。人の育ってゆく様にも似てなんか面白いなと思う、バラの香りのお話でした。

5回目 2008年 3月 14日

バラを召しませ!!                          にこにこバラ園 園主 伊丹雅昭

バラのプレゼントは好きですか?

須賀川駅で初対面の人との待ち合わせに、目印としてバラの花束を持って改札口で待っていました。目印としてはとても役立ったらしく直ぐに見つけてもらえましたが、通り過ぎる人がちらちら視線を投げかけてくるので、少し恥ずかしい気分にもなりました。ヨーロッパの駅だったらどうでしょう。他にも花束を持って出迎えに来ている人が立っていたかも知れません。日本ではまだまだ、花束や鉢植えを携えて歩いている人を見かけるのは少ない気がします。デンマークにいた時は上司や友達のうちに遊びに行く時は、花(花束や鉢植え)かチョコレートをよく持って行きました。貰うほうも慣れているようで、直ぐにその花に合った花瓶や鉢入れを持ってきて、部屋の見えるところに飾ってくれました。部屋の中を出来るだけ居心地のよい空間にしておくことに熱心なヨーロッパ人にとって、花をいつもきれいに飾っておくのはちょっとした喜びなのかも知れません。そんな光景をみて、「日本でも、もっと気軽に花を飾れば良いのにな。」と思いました。それが、農業を始める時にバラを選んだ理由の一つになっています。お友達の所にちょっと遊びに行く時に、花を持っていって、花瓶にでも、コップにでも飾ってもらうと、話の種にもなるし部屋もなごみます。誕生日のケーキを予約するように、花のアレンジバスケットを前もって作ってもらっておけば、持っていくだけで飾ってもらえます。みんながケーキやお饅頭のように気軽に携えて歩くようになれば、街角に花売りのスタンドなんかも出来て、街も華やかになるかも、などと空想しています。花は、卒、入学シーズンや母の日、クリスマスなどの物日は人手も花も足らなくなるくらいに需要があります。弊園でも実際、花が足らなくてお断りすることもあります。そういう時期は花も高くなるし、忙しいので丁寧さもいつもより落ちてしまいがちです。物日をはずして花を買うと意外とおまけしてもらえたりして、「へー、花もいいもんだな。」と花の良さを再発見できるかもしれません。誕生日や、結婚記念日、初デートの日、新築入居記念日などなど、考えると1年を通して花を贈る機会は多々あります。今年はお試しに花を贈ってみてはいかがでしょう。特に男性の皆様。「花なんかもらってもあんまり嬉しくないや。」とおっしゃるかもしれませんが、女性の方に花束をお届けに上がると、8割以上の方が、受け取ったと同時に「きれい。」とか「まあ!」とか言って微笑んでくれます。女性に喜ばれるプレゼントの一つだと言う自信ありです。どんな花が良いかなと迷われた時には、バラも候補に入れていただければ光栄です。

4回目 2008年 2月 8日

バラを召しませ!!                        にこにこバラ園 園主 伊丹雅昭

何色のバラが好きですか。

「茶色いバラが入っていたけど枯れてるんとちゃうの。」と言うクレームを聞いたときには少しショックでした。東京、田園調布の契約花屋さんでいつも高値で売ってもらっているシックな感じで喜ばれているバラだったのですが、その大阪のお客様は古くなって茶色になっていると受け取られたようです。説明して分かってもらえたのですが、「茶色は嫌いやから、今度から明るい色だけにして。」と言うことでした。「申し訳ございませんでした。」舞台出演した人へのお祝いのバラの花束ということだったので、少し変わったのが良いかなと思って茶色も入れてみたのですが、はずしてしまいました。バラの花の色は実に多種多様です。青い色のバラも遺伝子組み換え体で作れるようになったと数年前にニュースで聞きました。漆黒のバラは見たことがありませんが、かなり黒に近い赤色はあります。赤、ピンク、黄色と言った定番のバラも、濃い色から薄い色まで豊富です。緑や茶色や紫。花びらの先だけ違う色だったり、花びらの裏と表で色が違ったり、2種類以上の色の大理石模様だったり、驚くほど様々な色の品種が生み出されています。バラの花の色は品種だけで確定しているわけではありません。花の咲く季節や育つ環境にも影響されます。例えば、冬はチョコレート色のブラックティーと言うバラは夏には朱色かかったレモンティー色になりますし、夏に白地の先端に赤い色がはっきりと出るアリファと言う品種は、冬はほとんど白っぽい花になってしまいます。赤色のバラの中には、紫外線を通すフイルムを張った温室では黒っぽく、紫外線カットした温室では明るい赤になるものもあります。肥料のバランスや日照量によっても、色のでかたが変わります。一本のバラの色は、品種と生産者と天候によって醸し出されます。バラが農産物であり、工業製品と違うところです。弊園でも色々なバラを楽しんでもらえるように、品種をどんどん増やして来て30種類以上になりました。(小さな農場なのに余りに種類を増やしすぎて、1品種当たりの苗の数が少なく、冬場は1本も咲いていないときもある品種もありますが)沢山の品種のバラに囲まれてその季節季節の花の移ろいを一番楽しんでいるのは、私自身かも知れません。でも、楽しく世話をしてあげていると、バラも機嫌良く綺麗な花を咲かせてくれるような気がします。今年もまた、どの新しい品種を入れようかと密かに図っている立春です。


3回目 2008年 1月 18日 

バラを召しませ!!                      にこにこバラ園 園主 伊丹雅昭

最初の仕事は井戸掘り

うっすらと雪の積もった農地の片隅を指差し、「ここをほってください。」と叫んだのが私の初仕事でした。1998年の1月、農地を借りて直ぐ、井戸掘りの業者を呼びました。水耕栽培という方法で作るので、きれいな水は、薔薇作りを始めるための必須事項でした。ロックウールというスポンジのようなものに薔薇の苗を植えて肥料を溶かした培養液を毎日かけて育てる方法です。ロックウールには土のような緩衝作用がないので、かける培養液の影響を強く受けます。肥料を溶かす水に過剰の栄養分や雑菌が混じると薔薇の育ちが悪くなり、良い花を咲かせてくれません。飲めるほどきれいな水が必要なのです。井戸掘りの業者は、「水が出なくても、責任はもてませんので、掘るところを自分で指差してください。」と言いました。予算の関係で、5~60mで、水が出ないと困ります。「え、何の知識もないのに私が判断するの。」と戸惑いながら、ここで薔薇の栽培が出来るかどうか占うつもりで、祈る気持ちで農地の上の一点を指差しました。機械を設置するのに半日、掘り出すとその最新式の掘削機はどんどん掘り進んでゆきます。農地は高台にあるので、5m、10m掘り進んでも、土と石ばかりしか出てきません。30m過ぎた頃に少し泥水らしきものが出てきました。「岩盤を一枚抜きましょう、そのほうがちゃんとした水脈に当たるから」と言うことで掘り進むこと50m。きれいそうな水が少し出てきました。なんとなくホッとしているところに、「水が枯れないところまで。」と言うことで、66m。岩盤のかけらと一緒に水がどんどん吹き上がってきます。圧縮空気を使って掘り進む方法ですので、空気に押されて水も勢いよく噴出してくるのです。業者の人が缶紅茶を買ってきました。休憩かと思いきや、水の鉄分を調べるそうです。湧いて来た水を紅茶に入れ「色が変わらないから大丈夫、鉄の少ない良い水だ。」と言うことで、井戸掘りは終了。指をさして叫んでから丸二日の出来事でした。汲み上げ用のポンプをつけてもらい、井戸の設置完了。水は、保険所で調べてもらった結果、飲める位きれいなものである事が分かり一安心。ここで薔薇栽培するぞと再決意し、ハウスの建造に取り掛かることにしました。それから、早10年、日本の薔薇生産業を取り巻く環境はめまぐるしく変わって行きましたが、その井戸水は枯れることなく今も美味しい水を日々供給してくれています。



2回目 2007年 12月 14日

バラを召しませ!!                         にこにこバラ園 園主 伊丹雅昭

冬の薔薇は好きですか

寒くなってきました。12月にはいりますと、お歳暮やクリスマス、年越し花等の需要で薔薇の切花も引っ張りだこになります。庭の薔薇の木に花のない季節でも、温室の中では花が咲いています。冬でも花が咲くのは、切花用の薔薇が四季咲き品種だということが一番の理由です。庭に植えている修景用の薔薇や、オールドローズは6月頃にだけ咲く(秋にも咲く品種もある)一季咲きの薔薇が多いのですが、切り花用の薔薇は1年中咲くように改良された四季咲き品種なのです。時折、冬場でもオールドロースのような薔薇を見かけますが、モダンロースと掛け合わせて四季咲き性を獲得したイングリッシュローズである場合がほとんどです。では、四季咲きであれば年中咲くかというと、それだけでは冬には咲きません。気温がある程度高くないと咲かないのです。咲きかけたつぼみが咲くだけなら、夜の温度が5度以上あれば何とか咲いてくれるのですが、毎日花を咲かせて、次の芽も吹かせようと思うと、15度以上の温度が必要となります。温室は重油でボイラーを焚いて暖めています。弊園の温室は営利用としては小さい規模なのですが、2000m2以上の広さがありますので寒いときには1日にドラム缶1本分(200L)以上の重油が消費されます。省エネのために内張りのカーテンを2重、3重にしたり薪ストーブを使ったりと、色々工夫を凝らしていますが、昨今の石油の高騰は厳しいものがあります。日照時間も短かくなり、温室をを締め切るのでCO2不足に陥ったり、根からの肥料の吸い上げが悪くなったりと、冬ならではの問題が温度以外にもいろいろあります。それらの問題に対処して、11本丁寧に育てていき、温室の中で冬の薔薇の花を咲かすことが出来ます。それでも、冬場の生産量は夏場の3分の1以下に落ちてしまいます。それ故に冬の薔薇は高価なものになります。でも、ゆっくりと成長する冬の薔薇の花は、暖かい季節に比べると輪も大きくなるし、日持ちも良く、よりエレガントなものになります。薔薇は、製品として花束やリースなどになると、美術品や工業製品のようにどの季節でも同じように存在している気がするのですが、その素材となる薔薇の花自身は、農産物なので季節ごとに趣きが異なり、それが薔薇の花束の美しさの違いになるのです。




記念すべき 1回目 2007年 11月 9日

バラを召しませ!!                            にこにこバラ園 園主 伊丹雅昭

バラは日持ちしませんか?

福島県須賀川市に移り住み、バラ園を初めて、もう直ぐ10年。暑い日も、寒い日も。晴れの日も雨の日も。毎日、バラを世話するバラ暮らし。そんな農場から、バラのことで気になったことを綴ってみたいとおもいます。バラの切り花の販売をしていると、「バラは日持ちしないのでしょ。」とか「水揚げは難しいのでしょ。」と言う質問をよくうけます。バラは切られても成長を続けるので、つぼみから咲ききるまで表情が毎日変わって行きます。咲く速さは品種で随分違います。咲ききった姿が綺麗のか、5分咲きの頃が綺麗なのかは、100%嗜好品ですので、見る人の好みによってかなり違うようです。日持ちしない原因や日持ちのさせ方を書くと長くなるので思いっきり短く表現してみます。バラは人が気持ち良いと感じる場所が好みなので、冷暖房の効いた所に一緒においてもらえるとバラも喜びます。冬に「お宅のバラ2ヶ月近く持ったわ。」と喜んでくださるお客様もいますが、冬でも居間においてもらえれば、1週間毎日違う表情のバラを楽しめます。元気なバラでしたら、何もしなくて花瓶に入れるだけで水は揚がります。萎れ気味でしたら、茎を数センチ切り戻してから活けてください。市販の延命剤は大概、殺菌剤と糖分で構成されていますので、それを使って、乾燥気味の気持ち良いところに置いてもらえれば、そして時々傷んだ花びら等を取ったりしてかまってもらえればバラは喜んで長く咲き誇ります。珍しいケースでは、長持ちすると思ったら根が出てたと言うこともあります。バラは結構丈夫なのです。でも、その花はうつろうのを旨とするので、ずっと同じ形のままの花が好きな人には敬遠されるのかも知れませんね。

プロフィール

大阪市生まれ。大阪大学で造船学と発酵工学を学んだ後、外資系の酵素会社に就職。

東京、千葉(少しだけデンマークのコペンハーゲン)で過ごした後、須賀川市に家族で移住.1998年よりバラ農場を始める.

にこにこバラ園のホームページございます。 www.nikonikorose.com